大和古仏探訪

京阪神を中心に内外の古仏についていろいろと書いてみたいと思います。

飛鳥・白鳳彫刻の魅力(6):進歩と退潮

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日本ではどの時代の仏像が一番レベルが高いとされているのですか?

それはとても難しい質問ですね。様式史的にいえば、日本的な独創性がもっとも発揮されたという点では天平から貞観時代にかけてかしら・・。でも、造形技術的には定朝以降の寄木造りが量産面で革新をもたらしたとも言えるし、その後の鎌倉時代初期の慶派は、大きな造形美や写実性でルネッサンス的な意味もあるとも・・。あと、国家的な造像に対して、円空や木喰らの庶民信仰の身近な仏様を高く評価される方もいます。個人の見方によっても相当異なると思いますが・・。

わたしは飛鳥・白鳳初期の仏が最高ではないかと思っているのですが、そうした見方はないのですか?

個人の好みを別とすればですが、日本的な様式論では、やはりその後の時代に日本独自の展開があり、天平時代の前後を頂点とする見方が多いのではないかしら・・。月並みですが、例えば、東大寺三月堂(法華堂)の不空羂索観音や戒壇院の四天王、興福寺の阿修羅など諸像、それ以前の白鳳後期の薬師寺の薬師三尊や聖観音などがこれにあたると思いますけれど・・。

なるほど、それらの作品はたしかに素晴らしいですね。

質問も質問だが・・、その答えもどうかな。様式史をあまり鵜呑みにしてはいけないと思うね。日本の仏像様式史は戦前から熱心に研究されたが、意識してかどうかは別にして、日本的な様式の抽出にあまりに拘りすぎていないか。別の言い方をすれば、日本の仏像を頂点に見立てて、その独自の様式展開を論述するという価値観が根底にあったのではないか。<望月><野間><佐和>もその点ではある意味、同一の「潜在的な価値観」をもっていないか。

そういう考え方もあるのですか! でも戦前はそうであったとしても、戦後は明らかに違うでしょ?

戦前の主流派はさらに研究を深め、またそうした学派(シューレ)から新たな学徒が輩出されたことから、戦後も「潜在的な価値観」は底流として変わっていないのではないか。だからこそ、様式史でも日本的な展開を「進歩」とみ、またその独自性の喪失を「退潮」とみる見方が一般化されていないか。

でも、戦後はとくに朝鮮や中国との比較研究もすすみ、また一部は両国との共同研究などもあって、開かれた方法論になっているのではないですか。

方法論への過信こそ問題なんだ。近代的な方法論をとればその結論も当然進展するという単純なオプティミズムは危険だね。そもそも美的な感性は客観化できない。それこそ時代とともに変わっていく。日本の彫刻の評価もあらゆる時代を相対化してみないと、われわれの中のこびり付いた「潜在的な価値観」からは脱却はできない。

先生のお言葉ですが、さきに挙げた東大寺三月堂の不空羂索観音や戒壇院の四天王、興福寺の阿修羅など諸像、薬師寺の薬師三尊や聖観音などは専門の様式論の先生だけでなく、文学者や彫刻家といったほかの分野の方も高く評価されていると思いますし、さまざまな見方からも最大公約数といってもよいのではないですか。

最大公約数?とんでもない!たとえばフェノロサと救世観音の関係、ヤスパースが広隆寺の弥勒菩薩を最大限賛辞したことを忘れたかい。文化のグローバル性、多様性の視点こそ重要だろう。様式史的には両仏像についての紋切り型の評価はどうだい。

そう言われれば、鎌倉初期で日本の様式論はほぼ終わっていますね。あとは「退潮」の歴史だと・・。

そう、だから円空、木喰の評価が不当に低く「不連続」になる。しかし虚心坦懐に見てごらん。飛鳥仏と円空仏、木喰仏には面白いことに多くの共通点もある。日本の仏像様式論でそこをよく説明できているのかどうか。

(泣きそうに)先生、それでは比較研究の有効性はどうですか。そこは少なくとも相当の成果をあげているのでは・・。

日本の文部科学省か文化庁かは知らないが、もっと朝鮮や中国、インドなどの専門家に研究費を補助して逆に日本の仏像を研究してもらったらどうかね。たとえば、日本の学者が現地で調査するだけでなく、日本にそうした国々からの専門家を継続反復的に招聘して一緒に研究してもらったら、おそらく、もの凄く斬新な視点がでてくると思う。なにしろ仏像は「舶載品」だったのだから本家の見方も押さえておく必要はあるだろう。

面白いなあ。ところで、そうした意見は日本で多いのですか。

わからん!だが、ボストン美術館に多くに日本の一級の美術品が収集された経緯や、その裏返しで日本でのいわゆる東洋文化への接近の弱さはあるのではないか。東京国立博物館に行って東洋館を歩くと海外の仏像への敬意が足りず、なお「日本中心」主義を強く感じるね。わたしの批判する「潜在的な価値観」はそうした体験からのものかも知れんがね。

テーマ:文明・文化&思想 - ジャンル:学問・文化・芸術

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