大和古仏探訪

京阪神を中心に内外の古仏についていろいろと書いてみたいと思います。

【特別展】運慶 中世密教と鎌倉幕府 神奈川県立金沢文庫80年

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 2月11日(木)休日、この日に表記展覧会にいくことは前から決めていた。朝から首都圏は冷たい霙、その後、雪にかわる。そのお陰をもって会場はおもいのほか人は少なかった。
 しかし、こういう日だからこそ真剣に対峙している緊張感が小さな会場に満ちていた。連れだって来ている人々がかわす会話を聞くともなく耳にする。皆、本展示を楽しみにし、よく勉強しているなあと感心した。

 さて、本展のサブタイトルは「初めて出逢う 三体の大日如来/初作と最晩年作」である。また、奈良円成寺、愛知瀧山寺、栃木光得寺などの「遠路」出展に注目(個々の画像は下記「運慶ブーム」の2回のブログを参照)。

 まず、光得寺厨子入大日如来坐像を吟味する。品位あふれるご尊顔だ。近くの円成寺大日如来坐像と比較して、なるほどと思ったのは、当初、円成寺大日如来坐像(1176年)も、本像同様に大きな光背を背負い、繁茂し各葉、緻密に彫りだされた蓮華の台座とそれを支える見事に力感ある獅子の低足部をもっていたのではないかということである。
 そうであれば、円成寺大日如来坐像の下半身処理が平板であること、また、運慶が本像彫刻に1年近くをかけたことも合理的である。

 東博で7月20日から開催される「空海と密教美術展」のパンフレットがあった。これを見ると、東寺金剛菩薩坐像(839年)の写真と眼のまえの円成寺大日如来坐像とは似ているなあと驚かされる。同様に、東寺大威徳明王騎牛像(839年)は、運慶最後の現存作、称名寺光明院大威徳明王像(1216年)と実によく似ている。ここからは、運慶はじめ慶派が、東寺、高野山など先行する真言密教系尊像を研究しわがものとしていることがわかる。
 運慶のすごさとは、定朝の大量生産の技法をマスターし発展させたことに加え、南都復興にかけて天平時代の仏像をこの時代に甦らせたのみならず、平安初期の密教系造像にも習熟していたことである。つまり、これ以前の仏教彫刻を集大成させようと只管に精進したのではないかということである。

 ふたたび円成寺大日如来坐像について。3年前畏友O氏とともに円成寺に赴いての拝観以来だが、まずこうして至近距離で拝観できることがなによりの喜びである。保存のための処置というのは理解しているつもりだが、きれいではあっても、小さなお堂に監禁され、のぞき窓からみるようないまのお寺での拝観スタイルでは本像の魅力は十分に伝わらない。
 はじめは思いのほか小さく感じる。しかしじっと見ていると像が徐々に大きくなっていくような錯覚に陥る。それくらい本像の存在感が強いということだろう。家内と本像正面(しかし距離は結構ある)のソファーに腰をおとし眺める。下記にも書いたが金色剥落、黒い漆の素地の「まだらさ」が絶妙で、それが遠くでみると、900年におよぶ自然がなしたある種のモダンな色調調整のようにも思える。ご尊顔の抜群の素晴らしさ、像容のバランスの良さに、この色調の深い味わいが3つの魅力の総合となっていると感じる。

 運慶彫刻の訴求力とは、作品が言い知れぬ<パルス>を発信していると感じることである。仏さまが、無言ながらなにかの波動をみる者におくっている。だから通り過ぎることができない。立ち止まる。凝視する。言葉にできないもどかしさはあるが「なにか」を感じる。そして考える。会場でみていると(自分自身がその一人なのだが)、そうした波動に反応する人の動き方を感ぜずにはおかない。
 同時代の作例でも円派、院派の彫刻の多くは「美しいな」という軽い感想で行き過ぎてしまうようなところがある。有名な作品だからというのであえて観察をはじめると、かえって射出成型器からでてきたような定型感を感じてしまうこともある。運慶、快慶ではありえない。彼らの特有の<パルス>はときに荒々しくも剛毅であり、ときに心洗われるごとく清涼、爽快である。

<鏡>さんから以下のコメントがありました。

【以下は引用】

ここに書かれている「パルス」とは、張り詰めた緊張感の震えのことではないでしょうか。運慶の像はその造形の安定感から、均衡が保たれているようですが、その均衡は非常に大きな力の拮抗故の均衡であり、外見は静止していても、内部のエネルギーは大変大きく、それ故いつバランスを失うのかと観るものの心をかきたてるように思います。しかも、完全な美しさをもって。内部の大きな拮抗している力は、もちろん人間の葛藤そのもののように感じます。ベートーベンのあまりに美しい緩楽章がその前後のパッションに繋がっているように。物事を本当に真摯に考えると、そうならざるを得ない葛藤に。そして嘆きのフーガは運慶では無著や世親のように人間の形をもって顕れているようです。

テーマ:文明・文化&思想 - ジャンル:学問・文化・芸術

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