大和古仏探訪

京阪神を中心に内外の古仏についていろいろと書いてみたいと思います。

真夏の放談

夢違観音

 お久しぶりです。最近、イコノグラフィー(※1)について考えています。仏像鑑賞にこうした図像学的な視点はどの程度必要だと思いますか?

 人それぞれでしょ。もちろん知っていてよし、されどまた、知らなくともよしじゃないかな。

 なぜ、そう思うのですか? たとえば、阿弥陀如来だと、簡素な衣がけで印相は、定印、説法印、施無畏印・与願印などがおおく、脇侍があるときは、観音・勢至菩薩だということを一応知っていると、はじめて見たときに、これは阿弥陀さんだ・・・と理解がすすむと思いますが。

 でも、それで終わりでしょ。知っていて、その人の理解がすすむのであればそれはよし、でも、知らなくともその仏さんの良さは直観的に感じることができる。逆に、そうした知識ばかりがおもてにでて、仏さんが語りかけている大事なものに気がつかないのでは、それこそ元も子もない、もったいない、とも思うしね。

 わたし、さんの言うことも少しくわかる気がします。日本にはおおくのすぐれた仏像がありますが、由緒、縁起などから当初創建された寺院にずっとおあします仏さまばかりではありません。むしろ、お寺の栄枯盛衰から、本来のお寺から離れて、よそへ移転していった仏像もおおく、ご「本尊」が、別のお寺の「客仏」となり、その後、そのお寺の本尊が火災などの災害で失われて、「客仏」だったはずの仏さまがいつの間にか、別の宗派のご「本尊」に返り咲いたりします。そうすると、図像学的な見方では、お寺の歴史などとあまり整合しない場合もでてきます。そうした意味で、あまりに有名な事例は興福寺仏頭(旧山田寺)(※2)などではないでしょうか。
 その一方で、さんの言うように、ある程度の知識があったほうが、仏さまのことがよくわかるということももちろんあると思います。

 最近、お寺で仏さんのことを解説している人がよくいる。それが趣味ならそれも結構。とくにボランティアでそれをやっている人のなかには、博覧強記でこちらが聞いてとても得することもあるしね。だが、仏さんと自分との関係はほんらいは一対一。図像学的な知識が、かえって、その緊張感の醸成の邪魔になることだってあるかも知れない。

 そういえば本屋さんに行くと仏像の本をほんとうにたくさん見るようになりました。でも、おおくの本が、この仏さまは、こういう造像上の特色がありますという説明が中心です。図像学という言葉はつかっていなくとも、その解説は同じように思います。

 そうなんです。一種の仏像本ブームのなかで、その紙幅のおおくはイコノグラフィー的な記述ですね。ぼくは、すこしずつ経典も読んでいるんですが、難しい経典といまここにある仏像はなかなか結びつかないけれど、イコノグラフィー的なアプローチでは機械的、形式的、かつ累積的な研究の積みかさねもあって、一見わかりやすい気がする。
 でも、翻って考えるとそれをおおくの人がもとめているからこそ、書棚にそうした本が並ぶわけで、これこそ<知的>仏像ブームの火付け役かも。

 たぶん違うな。そんなことを求めているわけではないと思うよ。もっと本質にせまる本があれば、それを読むんじゃないか。仏さんに興味をもって本を買おうと思っても、似たり寄ったり、そうしたものしか身近にないと思わされているから手が伸びているんじゃないか。

 第二次世界大戦前の仏像ブームでは、和辻哲郎『古寺巡礼』岩波書店(初版は1919年)、井上政次『大和古寺』日本評論社(1941年)、亀井勝一郎『大和古寺風物詩』旺文社(初版は1943年)、望月信成『日本上代の彫刻』創元社(1943年)などが時代をつくってきたと思います。
 戦後では、1965年という年が出版のピークのときで、望月信成、佐和隆研、梅原猛『仏像―心とかたち』NHKブックス20、『仏像 続―心とかたち』NHKブックス 30、町田甲一『解説日本美術史』吉川弘文館などがこの年に上梓されました。
 イコノグラフィー関連では、入江泰吉・關信子『仏像のみかた』保育社(1979年)がハンディながらとてもよくできた入門書だと思います。關信子さんは近年では、小川光三, 關信子, 山崎隆之編著『仏像』 山溪カラー名鑑(2006年)というとても良い本を出版されていますが、わたしは關信子のとても配慮のゆきとどいたイコノグラフィーの捉え方が、いまの路線の先導役を果たしたのではないかと思っています。


※1:図像学(ずぞうがく、iconography)は、絵画・彫刻等の美術表現の表す意味やその由来などについての研究。イコノグラフィー。icon はギリシャ語のエイコーン(εικών、形の意味)に由来する語(イコン参照)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%B3%E5%83%8F%E5%AD%A6

※2:http://yamatokoji.blog116.fc2.com/blog-entry-170.html

テーマ:文明・文化&思想 - ジャンル:学問・文化・芸術

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