大和古仏探訪

京阪神を中心に内外の古仏についていろいろと書いてみたいと思います。

古寺の甍

多田智満子 『古寺の甍』 河出書房新社 1977年

 タイトルに一種の工夫があると思う。「甍」といえば『天平の甍』、言わずと知れた井上靖の名作がある。また、このブログでもいくども取り上げてきたように、和辻哲郎『古寺巡礼』ほか「古寺」を銘打った紀行本は数多い。その組み合わせで違和感なく『古寺の甍』はあるイメージを形成する。

 しかし、イメージと作品は別物かも知れない。神護寺、室生寺、高山寺、鞍馬寺、紀三井寺、仁和寺、峰定寺、蟹満寺、常照皇寺、鶴林寺、長谷寺、当麻寺、志明院、青岸渡寺、一乗寺、浄瑠璃寺、禅林寺の17の寺巡りは、事前の準備、その記述の文化的な広がりからみてもたいした努力の賜であろう。

 しかも、いまとなってはなんら不思議はないが、当時の「女流の目」が男の視点とは異なった艶やかな感性をたたえている。永井路子や白州正子といった達意の文人とも違った、比較文化論的な切り口や庶民的な思考、語り口は通読していて心地よい。多田女史は鬼籍に入られたが、本書はいまも現役の良さを十分にもっていると思う。

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